平凡(PHPより)

自分の一生はなんだったんだろう。この世に何を残せたのだろう。人生も後半にさしかかると、そんな思いがふとよぎることがある。劇的な出来事もなく、平々凡々と、ただ馬齢を重ねただけではなかったか。振り返るとむなしさだけが募るばかり。

 確かに波乱万丈、起伏に富んだ人生は面白い。あるいは世間に注目されるような功績をあげていれば、充実感もそれだけ大きいだろう。

 だが、毎日の生活の中にささやかな楽しみを見つけながら、身近な人々と心を通わせあい平穏無事過ごす。そうした生き方もまた十分、幸せなことではないか。

  語るべき特別な経験をしていなくても、後世に名が残らなくてもいい。世のほとんどの人がそうであるように、日々の自らの役割を地道に、忠実に果たしつつ、泣いたり笑ったり、時には悩んだりしながら、最後まで人生を全うすることこそ尊いのである。

 そう考えれば、平凡な人生を送ることも喜びが感じられる。お互い、ささやかなわが人生を十分に味わいたい。